人間万事塞翁が馬

08-10101“またニートになりましたが、次のチャンレンジを捜します”。サッカーワールドカップ日本代表監督岡田武史さんから、こんな葉書が舞い込んだ。この葉書の絵柄は代表チームの喜びの表情、そしてそこに「人間万事塞翁が馬」と書かれている。

「塞翁が馬」とは、中国北辺の塞に住む翁の話。貴重な馬が逃げて、周りから「おじいさん、大変な災いですね」と言われた。翁が「いやいや、これが福をもたらすやも知れぬ」と言っていたら、逃げた馬が雌馬を連れて帰ってきた。「おじいさん、よかったですね」と言われたが、「いやいや、これがどんな災いをもたらすやも知れぬ」と答えた。やがて二頭の馬に子が産まれ、この子馬に乗っていた息子が落馬して足を折った。「おじいさん、災難ですね」と言われたが、「いやいや、この災いが福をもたらすやも知れぬ」と。そして、戦争が始まって、村中の若者が駆り出されて殆どが戦死したが、この息子は足が悪かったので戦争に行かずに行き残った。

今回の南アフリカ大会、もし事前の強化試合で3連敗していなければ、決勝トーナメントには行けなかった、と思うのは私だけではあるまい。事前の3連敗という災いが、決勝トーナメント進出という福をもたらしたのである。多分3連敗で、岡田さんは“のた打ち回り”、“開き直り”それでも“トライ”し、何かを掴みとった。そして、“遺伝子にスイッチが入り”、「ひょっとしたら、これは何かいいことがくるんじゃないか」と思ったに相違ない。選手たちも然り、である。

「塞翁が馬」、「禍福は糾える縄の如し」とは、単なる諺としての慰め文句や、戒めの言葉ではなく、岡田さんのこの葉書から察するに、それはどん底でもがき苦しみ、苦悩の中から覚悟する“神の言葉”かも知れない。そして勝負の神は細部に宿り、今を精一杯生きる者を応援する。その中で多くを学び、変化し、成長し、「福」がもたらされる。

最近ちょっと気になることがある。海外にでる若者が減っている。例えば、日本からハーバード大学への留学生は、101人(2009-2010年度)に激減、中国の463人、韓国の314人と比べて大幅に少ない。世界の中で日本のプレゼンスが大きく低下しているが、これから日本を支える若者達の気概や、チャンレンジ意欲が少ないことを危惧する。 薩摩には、困難に直面した時に鼓舞する言葉がある。“泣こかい、跳ぼかい、泣こよかひっ跳べ!

”兎に角一歩踏み出し、目標を持ってチャレンジして欲しい。そして災いが生じようと、「塞翁が馬」で前を見据えて逞しく進んで欲しい。それが若者の特権だ。(高原 要次)