「美」という文字は表意文字である。中国最古の字書「説文解字」によると、「羊」+「大」の二文字で構成される「会意文字」だといわれている。羊は古来より神事の際、献物として供えられていた動物であり、大きな羊は献物としての価値が高く、大きいものは「善」いものとされていた。さらに神に供えられる羊は美しく完全であることを求められたことから、「大」+「羊」=「美」の漢字が生まれ、「美しい」という意味を持つようになったとということである。そして、のちにすべての「美しい」の意味に用いられるようになった。また、華北平原で羊の群れを、リーダーである大きな羊が率いていく様が、とても「美しい」と思われた、という説もある。
森林山岳島国国家である日本と、荒涼とした華北の中国とでは自然環境が違い、国家の成り立ちや歴史も大きく異なる。そもそも、日本には羊はいなかった。推古天皇の時(599年)に、百済から貢物として献上されたのが最初である。勿論、リーダーに率いられた羊の群れが移動する姿は見られなかった。
では、日本ではどのような情景や姿が「美しい」と思われたか。弥生時代に、稲作がもたらされコメ作りが広がった。初夏になれば、田圃に水を張り、田植えが行われる。整然と植わった稲田の様子こそ、我々日本人には美しく感じられる。
実は、コメ作りは神様との共同作業である。田圃の隅には「田の神さま」が祀られ、稲荷神社を設けて豊作を願った。“神さま”は、綺麗な所にしか降りてこない。それ故に、農民は田圃の草を取り、畔草を伐り、いつも田圃を綺麗にする。文字通り「山紫水明」である。
これは、日本人の精神性にも相通じる。濁りの無い清らかな心を持ち、「清く美しい流れ」、「正心誠意」の生き方である。
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