歴史人口学者のエマニュエル・トッド著「老人支配国家日本の危機」の結論は、“日本の本当の危機は、コロナでも経済でも中国でもない。「日本型家族」だ”というものだ。
この本の中でトッドは、英米のアングロサクソン社会が近年の世界史を牽引してきたが、それは「創造的破壊」という概念と深い関係がある、と言っている。「創造的破壊」とは、自分が作り出したものを自分自身で破壊し、新しいものを創ることであり、英国人・米国人はそれに長けている。その理由は、英米の伝統的家族形態、すなわち「絶対的核家族」にあると。絶対的核家族においては、子供は大人になれば、親と同居せずに家を出て行かねばならない。しかも、別の場所で独立して、親とは別のことで生計を立てていかねばならない。これらのことが、英米の人々に「創造的破壊」を常に促していると考えられる。と。
「直系家族(長子相続)社会」である日本の美点は、「世代間継承」、「技術・資本の蓄積」、「教育水準の高さ」、「勤勉さ」、「社会的規律」があげられる。そして、「親」と「老人」を敬う儒教社会では、「成人した子供」が「親の世話を担う」。
しかし長所(美点)が短所に反転することがある。今まさに日本はその状況にあり、「創造的破壊」が困難になっている。
2020年時点での各国の中位年齢は、日本48.8歳、ドイツ47.4歳、韓国43.1歳、フランス41.9歳、タイ40.5歳、中国38.7歳、米国38.6歳、ブラジル33.4歳、ベトナム32.6歳で、先進国平均は40.2歳、発展途上国平均29.1歳、全世界平均は30.9歳である。日本は世界で最も年齢の高い国になっている。
更に2021年10月の衆議院選挙の投票率を見てみると、20歳代36.50、30歳代47.12、40歳代55.56、50歳代62.96、60歳代71.43、70歳代以上61.96である。若者の投票率は極めて低く、現役世代の投票率も低い。高いのは高齢者、特に定年を迎える60歳代が最高である。
つまり世界最高齢国家の日本は、この国の将来の決定(国政)を高齢者の判断にゆだねているのである。高齢者は、「老人にとって得か損か」ではなく、「将来を担う若者たちのために、またこれから生まれてくる子供たちのために」という軸で投票してくれるであろうか・・・。
今回の新型コロナでは、「老人」の「健康」を守るために「若者」と「現役世代」の「生活」を犠牲にした。社会の活力は出生力に依存する。高齢者の死亡率よりも重要なのは出生率であり、「老人の命を救う力」よりも「次世代の子供を産み、育てる力」が問われる。そして、「創造的破壊」から「新しい明日」を創る活力を有したい。
ラーニング・システムズ
高原コンサルティングオフィス
高原 要次