「“人新生”・・・地球の危機」

 “人新生(Anthropocene)”とは、2000年に大気化学者のPaul Crutzenが、人類が地球の地質や生態系に与えた影響を発端として提案した想定上の地質時代である。“人新生”の特徴は、地球温暖化などの気候変動、大量絶滅による生物多様性の喪失、人工物質の増大・堆積物の変化などがあり、人類の活動が原因とされる。
 “人新生”がいつから始まったかは諸説あり、➀農耕の開始から(1万年前)➁資本主義の始まりから(17世紀~18世紀)➂産業革命から(19世紀始め)➃グレート・アクセラレーション(大加速)から(20世紀後半)、とある。
 地球温暖化。世界気象機関(WMO)の発表によれば、2019年の世界の平均気温は産業革命前のレベルを1.1℃上回ったという。因みに、2016年に発効したパリ協定が目指しているのは2100年までに気温上昇を産業革命以前と比較して2℃未満(可能であれば1.5℃未満)に抑え込むことである。温暖化の最も大きな要素である大気中の二酸化炭素(CO2)含有量は、産業革命前の280ppmから2014年には400ppmに上昇し、2021年6月時点では417ppmである。この増加の大部分は、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料の燃焼による。
 生物多様性の喪失。2019年時点の報告では、約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕しおり、生物種絶滅のペースは過去1,000万年の平均と比べて少なくとも数十倍から数百倍とされる。地球の全光合成生物資源の約半分を占める海洋プランクトンは、過去60年間で約40%が減少している。また、動植物種の25%が絶滅の危機に瀕しており、全ての昆虫種のうち40%が減少、特に花粉を媒介するハチやチョウなどの虫や動物の排泄物や死骸を分解する虫、水中に産卵する虫の状況が悪化している。原因は森林伐採、農地開発、農薬や殺虫剤などの化学物質である。
 人工物質の増大。人間が生み出した人工物の総量が約1兆1,000億トンに達し、地球上の生物の量を上回った。このままのペースでは、20年後には人工物量が生物量の3倍近くに達するとみられる。わたしたち人間は、コンクリートで固めた大都市を無造作に次々とつくりだし、広大なハイウェイ網を張り巡らせて都市をつなぐ。森の木々を切り倒して木材にし、家を建てる。自然の産物を加工して、砂をセメントやガラスに、石油をアスファルトに、鉄を鋼鉄に変えてきた。また、石油からプラスチックを作り生活用品に加工してきた。そして今、世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計で1億5,000万トン。
 このように人類がもたらした変化が、地球の限界を越えつつある。地球をシステムとして考えると、恒常性を維持するレジリエンス(回復力)が働いている。しかし、回復不能点(ティッピング・ポイント)を超えると地球は壊滅的な状態になる。
 “人新生”、今地球は危機である。

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高原コンサルティングオフィス

高原 要次